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ロングストロークエンジンの低速トルクが大きい理由(3)

常吉

精密検査の結果が出ました。時間が無くなってきたのかもしれません
#まだクロと決まったわけじゃない、#クロでも死ぬと決まったわけじゃない、#いずれにせよ我が人生に悔いはなし

ろくでもないこと書いていないでさっさと本論に入りましょう。(あれこれ絡み合う複雑な事象のため、学術的正確さよりも分かりやすさに主眼を置いて非常に大雑把に説明しています。)

前回出力やトルクを向上するためにはそれに見合った空気を入れることが必要であることを書きました。
では自然吸気(NA:Natural Aspiration)エンジンの吸入空気量は何に支配されているのでしょうか。行程容積(シリンダ1本あたりの排気量)500ccのエンジン(仮に圧縮比10とします。)は静的には500ccの空気を吸える訳ですが、実際には次の二つの影響を受けて吸入空気量が決まります。

1. 詳しいことは省きますが吸気管内には吸気の脈動があり、吸気弁が閉じる時期にどんな圧力が同調するかよってシリンダ内の空気量が変化する。(正圧を同調することを動的過給といいます。)

2. 排気行程の終わり燃焼室内に残留した熱い排気ガスが次の吸入行程で膨張してシリンダ内に居座るため新たな空気の流入が阻害される。(シリンダ内には500/(10-1)=56人の太った居残り客がいるため次に待っていたお客500人全員が入るだけの余地がない。)

吸気菅の太さと長さ、それに合わせた吸気弁の閉じ時期を上手に調整することによって吸気弁が閉じる時期に高い吸気圧を同調させること、排気弁の閉じるタイミングと吸気弁が開くタイミングおよび排気管の長さを適切に設定することによって残留ガスを吹き飛ばすことができること、この二つによってNAエンジンの吸入空気量を増やすことができます。

ところが残念ながらこれらのパラメーターはエンジン回転数によって最適値が変化してしまいます。高回転に合わせれば低回転側はスカタン、逆も同じです。つまりどこにトルクのピークを持って来るかは設計者のチューニング次第です。
(そこで低回転から高回転まで全域最適化しようとするのが連続可変バルブタイミング機構であったり、連続可変吸気系であったりするわけです。)

さてここでロングストロークエンジンに戻ります。

ロングストロークエンジン=スモールボアエンジンです。
スモールボアエンジンの吸排気弁径はラージボアエンジン(ショートストロークエンジン)に比べて必然的に小さいわけです。バルブ径が小さければ当然吸気ポート径や吸気管径も小さくなります。

だんだん分かってきたでしょ(笑)

ある量の空気が吸気管とバルブの傘の隙間からシリンダに流れ込むとき、その流速(体積流量/断面積)が音速の約1/2になるとそれ以上エンジン回転数を上げても吸入空気量は増えないという経験則をC.F.Taylorさんという偉い先生が昔々発見しました。ロングストロークエンジンの吸気ポートの断面積はショートストロークのそれに比べて小さいので同じ流量の空気が流れても流速が上がってしまい高回転で運転しても出力あるいはトルクは上がらないことになります。
そう、ロングストロークエンジンは吸気のチョーキング現象のために高回転で回す意味がないのです。
更に、ロングストロークエンジンの細い吸気管は吸気の流速が高いために管内の脈動が大きく、太いポートでは作りえない高い正圧を低回転で作り出せるために、これを吸気弁が閉じるタイミングにうまく同調することによって低速トルクを大きくするポテンシャルがあります。

となれば設計者は必然的に低速トルクが出るようにポートを長く細く設定し、吸気弁閉時期を上死点付近に設定します。前者は低回転側で吸気脈動を大きくするとともにその正圧を吸気弁閉時期に同調させ、後者は吸気の吹き戻しを防止することによって吸入空気量を増やすのです。(今では流体解析ソフトが勝手に最適解を出してくれるので最近の若い設計者がこのことを知っているのかどうか知りませんが…)

まとめます。
1. ロングストロークエンジン(=スモールボアエンジン)はバルブ系が小さいため吸気管径もそれにともなって細く、吸気のチョーキング現象によって高回転型にしようがない。
2.  上記理由によりロングストロークエンジンで高回転を目指すのはナンセンスなので吸気管長を短くする必要がなく、長い吸気管にすることができる。
3. ロングストロークエンジンの細い吸気管は低速でも大きな吸気脈動を作り出し、長い吸気管はそこで作った大きな正圧を吸気弁が閉じるタイミングに同調することができるので、ロングストロークエンジンの低速トルクは大きくなる。
4. 仮に太く短い吸気系を持つショートストロークエンジンのバルブタイミングを低速チューニングしても太い吸気管内では脈動が小さい上に、管長が短いために吸気弁閉時期に正圧を同調できない。もちろん吸気菅を細く長くすれば低速型になるが、最高出力が下がるのでショートストローク(ビッグボア)にした意味がなくなる。

これがロングストロークエンジンの低速トルクがショートストロークのそれよりも高い理由です。半分は自然現象ではなくチューニングなんですが、必然性のあるチューニングと言えます。

今回は時間がないので多少の不正確さには目をつぶって分かり易さ・本筋を優先で書きました。そんなわけで同業者の方からのチャチャはご勘弁ください。分かって書いているのですから。
またつまらない結論を出すのに3回も引っ張ってしまってすみませんでした。


月曜に今後の治療スケジュールが出る予定です。
これからどうなるのか見当もつかないので明日は家内と若いころ二人でよく行った箱根を走ってきます。
そして元気に戻ってくるぞー!


   
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Posted by常吉

Comments 4

There are no comments yet.
おさ  

こんにちは、初めまして。
https://www.youtube.com/watch?v=1_f1wc8SGbs&t=31s
上記youtubeでロングストロークエンジンはてこの原理でトルクが大きいと解説があったのですが、動画のコメント欄で論争が有りどうなのだろうとネットサーフィンでこちらのページを発見しました。
低回転域でトルクを出しやすいというのはこちらのブログの説明で理解出来ましたが、『ロングストロークエンジンはてこの原理でトルクが大きい』というのは実際どうなんでしょうか?

2019/09/07 (Sat) 09:17 | EDIT | REPLY |   
常吉  
お答えします

おささん、ご質問ありがとうございます。

>『ロングストロークエンジンはてこの原理でトルクが大きい』というのは実際どうなんでしょうか?

まず結論から。
ロングストロークエンジンの低速トルクがショートストロークのそれに比べて高い理由は、(ノッキングの起こりにくさや熱損失などわずかな差をのぞけば)私が書いたこと以上の事は一切ありません。梃の原理によるロングストローク高トルク説はピストン頂部に加わる力の変化を考えに入れていない都市伝説です。

てこの原理が全く無関係である理由を以下に述べます

同じ量の燃料が爆発する場合、立方体であろうと直方体であろうと球であろうと燃焼器容積が同じならば爆発圧力は同じです。つまり同じ量の燃料を燃やした場合、燃焼室容積が同じ(つまり排気量と圧縮比が同じ)であれば爆発圧力はロングストロークでもショートストロークでも同じになります
一方、ロングストロークエンジンのクランク半径(梃の長さ)はショートストロークに比べて長いのですが、その分爆発圧力を受けるピストン面積が小さくなります。従って同じ爆発圧力を小さなピストン面積で受けるロングストロークエンジンのピストン頂部に加わる力はショートストロークのそれに比べて小さいのです。確かにピストンに加わった力を梃の原理によって増幅する大きさはロングストロークの方が大きいのですが、その増幅分はピストンが受ける力が小さくなる分と相殺し、結果的にロングストロークとショートストロークエンジンのトルクは同じになるのです。

しかしこれでは嘘か本当か分からないので単純化した数式で説明いたします。

Fp:ピストン頂部に加わる力、Ft:梃作用点に掛かる力、P:爆発圧力、B:ボア、St:ストローク、Vst:シリンダ当りの排気量とすると、
Ft=Fp×St/2
Fp=P×B×B×Π/4
∴Ft=P×B×B×Π/4×St/2
 =P×(B/2×B/2×Π×St)/2
 =P×Vst/2

つまり、梃作用点に加わる力Ftはストロークとは無関係で、爆発圧力P(正しくは平均有効圧力)とシリンダ当りの排気量に支配されることが分かります。言い方を変えればトルク(∝Ft)を上げるにはPを上げるか排気量を上げるしかないわけです。私が本文で述べているのは何故ロングストロークではこのPが高くなるのかということを説明していたわけです。

同じことですが数値を入れて計算してみます。
例えばいずれも排気量が500ccで、ボア9.0cm/ストローク7.86cmのショートストロークエンジンAと、ボア8.0cm/ストローク9.95cmのロングストロークエンジンBを考えます。両者の燃焼圧力(正確には平均有効圧力)がPだったとします。この時ピストン頂部に作用する力はAのエンジンではP×9×9×3.14/4=63.585P、BのエンジンではP×8×8×3.14/4=50.24Pとなります。梃の作用点はクランク半径(=ストロークの1/2)ですからそこに加わる力は
A:63.585P×7.86/2=250P
B:50.24P×9.95/2=250P
同じですね。

お答えになりましたでしょうか。

注)
分かり易さのために単純化して記述しています。実際の値を計算する場合は単位系を揃えることや1行程の間の力の積分などが必要になることにご注意ください。

2019/09/08 (Sun) 18:15 | EDIT | REPLY |   
おさ  

私はエンジニアとかではない一般人?なので、なんとなく爆発圧力がおなじならトルクも同じなんじゃないかなぐらいにしか思っていなかったのですが、なんかすっきりしなくて質問させていただきました。
いやーもうほんとスッキリしました。
数式まで載せて頂いた丁寧な解説ありがとうございました。

2019/09/09 (Mon) 00:57 | EDIT | REPLY |   
常吉  

おささん、

スッキリして頂けてよかったです。
ご質問ありがとうございました。

2019/09/09 (Mon) 07:28 | EDIT | REPLY |   

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