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ロングストロークエンジンの低速トルクが大きい理由(1)

常吉

年が明けて山の雪も増え、頭の中はすっかり山スキーモードに切り替わってしまいました。
山スキーに興味のある方は本館を是非ご覧ください。
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で、こちらのブログは書くことがない時の頼みにしている技術編です。
一般にロングストローク(以下LS)エンジンは低速トルク型であると言われておりますが、これはどうしてなのでしょうか。
その理由を探してネットサーフィンをしてみると次のようなもっともらしい解説が見つかります。(ちなみに”T=rF なのでストロークrが長いロングストロークエンジンのトルクが大きい”なんて言う議論に値しない説は除外しました。)

曰く、LSエンジンはSV比(燃焼室の比表面積=表面積/体積)が小さいため熱損失がショートストローク(以下SS)エンジンに比べて少なくなり、その結果熱効率が高くなる。→事実としてはその通りなのですが…。(後述)

曰く、LSエンジンはSV比(燃焼室の比表面積=表面積/体積)が小さいため壁面に付着する未燃燃料がショートストローク(以下SS)エンジンに比べて少ないため燃焼効率が高くなり、その結果熱効率が高くなる。 →事実としてはその通りなのですが仮に燃え残っていた100ppmの燃料がLS化によって燃えるようになったとして一体トルクはどれだけ高くなるのでしょうか。トルクという物理量を云々する上では完全に誤差範囲内です。

曰く、LSエンジンはボアが小さいために火炎が燃焼室末端に到達する時間が短いのでノッキングしにくく、点火時期を進角できるために熱効率が高い。 →中にはその効果を見出したという学術論文もあるので完全否定はし辛いのですが実際は…。(後述)

曰く、LSエンジンは(ストロークが長いために)ピストン速度が速くシリンダーに流入する新気の速度が速いために急速燃焼となり、ノッキングが起きにくかったり熱損失が少なかったり、時間損失が少なかったりするので熱効率が高い。→そもそも同一排気量でストロークを伸ばしても(=排気量一定なのでボアは小さくなる)シリンダーに流入する空気の速度はビタ一文変わりません。残留ガスなど細かいことを言わなければV∝回転数×単シリンダ当りの排気量です。下線を引いた前提の考え方が間違っているので完全否定です。(実際はLSエンジンの流入空気速度はお説の通り高いのですが、その理由は全く別なところにあります。これは後編で。)

まず、いずれの説にも共通する論理の欠陥ですが、これらの効果はいずれも「低速」トルク向上に限った話ではないという事。仮にこれらが正しかったとすれば低速から高速まで全域でトルクが向上することになり、命題である「なぜLSエンジンの低速トルクが高いのか」の答えになっていません。細かい吟味をする以前に、この時点で全ての答えはペケ、命題に対する答えになっていません。

それだけではお話としてつまらないのでもう少し突っ込んでみましょう。

ノッキングについてですが、ノッキングする前に燃やしてしまえばよいという急速燃焼願望は一流カーメーカーのエンジン開発者や内燃機関を研究している大学の先生方の間ですら根強いのですが、実際やってみるとそんなに単純なものではなく、多くの場合燃焼が速くなるとそれに伴ってノッキングも早まり結果的にノッキング余裕度は変わらない場合がほとんどです。そんなことでノッキングが無くなるくらいならばどのエンジンもツインプラグになっていますよね。この効率追求時代の現代においてすらそんな事だれもしていないでしょ。(お前が元いた会社の初代FITのエンジンがそれやっていたじゃんかって? あれはさぁ、エンジンLPLだった…が…で(以下機密)。)

SV比低減による熱ロスの低減や、後編で述べる理由に起因する急速燃焼による熱ロス・時間ロスの低減は確かにその通りなんですが、その効果は効率にしてコンマ何パーセントでしょうか。仮に元々のトルクが300Nmだった場合、それら熱効率向上分で300.1Nmとか300.3Nmとかに達するかどうか…。決め手に欠ける燃費対策の積み重ねとしては非常に重要なのですが、トルクアップというスケールの話ではありません。

というわけで風説はすべて否定です。(間違え、あるいは定性的には合っていても量的スケールが違っている。)
まだ納得できない方はこれらをの論法を逆に使って、「何故ショートストロークエンジンの最高出力がロングストロークのそれに比べて高いのか?」を説明できますか? 

出来ないと思います。(ちなみにピストンスピードは付随して解決しなければならない技術課題であって、命題に対する本質ではありません。)
ではなぜLSエンジンの低速トルクはSSエンジンに比べて高いのか。そしてその逆も。
そのお話はもったいぶって次回に続きます。

ちなみにTOPページに貼った本記事のアイキャッチ画像はネット上で拾った物ですが、写っているのは私が今現在勤務しているアメリカの某技術研究所のエンジニア二人で一人は日本の産学のエンジン研究者の間でもかなり名の通った男です。今年も来月名古屋で開かれる機械学会の分科会、5月のみなとみらいでの自動車技術会春季大会、夏の京都で開かれる日米自動車技術会共催のシンポジュームなどで講演いたします。関係者の皆様よろしくお願いいたします。




   
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Posted by常吉

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